第10回 商品性目標未達成による手戻りの課題

2019.03.04

 

第10回は、私の支援技術開発時代の体験談の3回目をお話ししたいと思います。支援技術開発の3本目の柱である、商品性目標未達成による手戻りの課題です。設計部門では、信頼性設計と同様に商品性設計においても、設計要件や過去の開発データ等に基づき最適な諸元等を選定し、構造や機構の設計をしていますが、手戻りを未然防止することは十分ではありませんでした。

背景として世界的な環境問題があり、エンジン開発にも低炭素化の一環で厳しい軽量化目標が課されています。軽量化の主要課題はNV(音振動)等の商品性、および強度等の信頼性です。信頼性については、シミュレーション技術の進化や実験データによるフィードバックで精度良く予測できるようになり、強度要件を満足しながら一定の軽量化も可能になりました。一方、商品性については、設計段階でNVの定量的な予測が難しく、結果として目標未達による手戻りが発生することがあり、開発に与える影響も大きく重点課題の一つになっていました。

軽量化の主要課題はNV(音振動)等の商品性

そこで、軽量化研究プロジェクトを立上げ、シリンダーブロックやクランクシャフト等の基幹部品の軽量化手法の確立に取り組むことにしました。部品ごとに、強度要件を下回らない範囲で剛性値を変化させてNV感度を求めるアプローチです。結果として、NVを悪化させずに一定の軽量化はできましたが、以下のような根本的な課題も見えてきました。

軽量化の課題

・部品ごとの軽量化(部分最適)は、システムとして最軽量(全体最適)になっているのか不明確。
・軽量化検討には図面や現物が必要で、初期設計段階では活用が難しく、汎用性も不十分。

 

これらの課題解決に向けて、軽量化研究プロジェクトを継続することとしました。解析系キーマンの力を借りて、進化が著しい1次元シミュレーションを用いたMBD(モデルベース開発)手法を応用することにしました。私は、MBDは制御系の品質と効率向上の手法と認識していたので、ハードウェア系の設計に活用できるとは想像もできませんでしたが、MBDの基本を学び実践することで、次第に使い方と価値が理解できるようになっていきました。座学だけでは不足で、現場で自ら事例に取組みながらMBDを体得することが不可欠ですね。

ハードウェア系設計へのMBD手法応用

題材は、軽量化のボトルネックの一つであるクランク打音とし、クランクシステムのNVと重量の関係性を定量的に求めることにしました。ハードウェアにMBD手法を適用した前例は無く、アプローチに悩み試行錯誤が続いて苦しい時期もありましたが、外部の専門企業の協力を得て突破口が見えてきました。時間はかかりましたが、最終的にシステム最適化プロセスにたどり着くことができました。新プロセスでは、設計初期段階にシステム機能設計を新たに導入し、システムを最適化する設計諸元を選定してから構成部品を最適諸元に合わせ込み、制約条件を加味して形状設計することになります。具体的なシステム機能設計の流れは、NV特性をモデル化するにあたり、基準となる量産エンジンの3Dモデルを縮退して1Dモデルを作成します。このモデルを設計パラメータと関連付けて多数のパラスタを実施することで、NVとシステム重量のトレードオフ関係を定量化し、最適線としてのパレートラインを求めることができます。図面の無い初期設計段階で、NVレベルの定量的な予測とシステムの軽量化が可能です。また、エンジンの排気量や気筒配列によらずNV発生メカニズムは基本的に同じなので、プロセスは共通でありモデルの修正程度で済み、汎用的なプロセスにもなります。

課題解決を振り返って

当初の課題も解決でき、ハードウェア系の次世代設計プロセスの基本形を完成することができました。1990年代から開発のフロントローディングに取り組んできましたが、ようやく本格的な解決手法の登場です。MBDは時代の要請でいずれ必要になりますので、皆さんも身近な事例で試行してみてはいかがでしょうか。実施にあたって、従来の設計後のシミュレーション(評価CAE)とは異なり、必要なシミュレーションを体系的に組合せる(企画CAE)必要があり、関連部門(設計・解析・実験)の協業が不可欠になります。開発現場は多忙なこともあり、貴重な社内技術者をコアである先進技術や魅力商品の開発に集中し、MBD導入は外部の専門企業の力を借りることも選択肢の一つとなるでしょう。

次回は、支援技術開発時代の集大成として、改めて設計力を高めるための施策を自分なりに整理してお話ししたいと思います。設計出身者として開発現場で多くの失敗経験を重ね、試行錯誤しながら体得してきたものです。現在は、社外的にはグローバル競争の激化等、社内的にはベテランの退職等、開発部門も時代の変革期に入ったと認識しています。設計者には、社内でリーダーシップを発揮し、設計力強化や設計プロセス革新に向けて自ら行動することを期待したいと思います。