第9回 耐久試験における手戻り防止プロジェクト

2019.02.11

第9回は、私の支援技術開発時代の体験談の2回目をお話ししたいと思います。支援技術開発の2本目の柱である信頼性課題、すなわち社内の耐久試験における手戻りです。劣化事象が最大の弱点で、設計要件は十分ではなくシミュレーションも苦手な領域です。実験系のキーマンと共に、設計段階で劣化寿命を定量的に予測し手戻りを未然防止する課題に取り組みました。

劣化事象の課題への取り組み

耐久試験で合格基準を満たさない信頼性系の設計手戻りの中で、一般的な強度問題や破損事象についてはシミュレーションによる予測精度も高くなり、設計段階で概ね保証できる様になりました。一方、摩耗に代表される劣化事象は、合格基準を満足するまで耐久試験を数回繰り返すこともあり、工数や費用はもとより時間もかかり大きな課題になっていました。設計部門では、設計要件や実験部門との連携で蓄積・共有されたデータや知見に基づき最適な諸元を選定し図面化していますが、定量的な寿命予測や手戻りの未然防止は十分ではありません。また、劣化事象を検証可能なシミュレーションも少なく、耐久試験に頼っているのが実態です。

諦めずに粘り続けてプロジェクトを立ち上げる 

そこで、設計段階で劣化寿命予測および最適諸元選定を目的としたプロジェクトを立ち上げることにしました。難しいテーマですが、現場ニーズを踏まえて限られた時間と資源で解決する必要があります。過去に培った人脈で実験に強いキーマンの協力を得て企画書を作成し、上層部や関連メンバーに粘り強く説明を行いましたが、開発現場は恒常的に多忙で資源確保に苦労し、プロジェクトの立上げまでに多くの時間がかかってしまいました。技術以前に、現場技術者には諦めずに粘り続ける気概が必要になることもあると思います。

実験検証とパラメータスタディ

開発現場には解決すべき劣化事象は多く、発生頻度や影響度を加味して優先度を付けて、最初に取り組む案件を定めます。次に、基本的なアプローチを検討します。劣化事象そのものを再現および検証するシミュレーションは無いケースが多く、実験で検証することになります。実機試験では時間もかかるので単体試験に置換してパラメータスタディを行います。劣化事象を要因分析して設計パラメータまで体系的に展開した上で限られた期間内で完了するためにも、技術的な知見に基づき慎重にパラメータを絞り込む必要があります。次に、パラメータを振って実験し劣化感度を求め、得られた感度を応答局面として実験モデルを構築します。設計諸元を選定すると、実験したパラメータ範囲内では劣化予測が可能となります。さらに、予測範囲を拡張するために代替指標等を工夫して実用的なシミュレーションを確立しておくことにしました。

パラメータ設計を活用したロバスト設計

加えて、ロバスト設計を行うために品質工学のパラメータ設計を活用することにしました。設計者が制御できないノイズ(製造公差等)を与えて、機能の安定性(SN比)を求める手法です。実際に品質工学に取組んでみると、実験にはバラツキが付き物でSN比を精度良く求めることは難しいこともありました。また、現物での実験は資源や時間がかかることもあり、品質工学を十分に使いこなすまでには至りませんでした。品質工学のアプローチは物理式で入出力の関係を記述および解析する機能評価です。現物や3次元シミュレーションよりも1次元シミュレーションとの相性が良く、個人的には商品性を扱うMBD(モデルベース開発)に組込む方が使いやすいのではないかと考えています。

試行錯誤をしながらも、チームメンバーの粘りで実験モデルに基づく劣化予測という基本形が完成し、設計者が使えるように標準化して設計プロセスに反映していきました。この後もプロジェクトを継続し、優先度に従って弱点項目を着実に潰し込んでいきました。資源も時間もかかりますが、手戻り防止の近道は無く継続は力なりということです。また、モデルという概念を事例で学ぶことができ、後にハードウェア系のMBDに取り組む際に理解と応用の一助ともなりました。

次回は、支援技術開発の3本目の柱である商品性の手戻り防止に取り組んだ時の体験談をお話ししたいと思います。設計部門では信頼性設計と同様に、設計要件やデータ等に基づき最適な諸元等を選び作図していますが、手戻りを未然防止することは十分ではありませんでした。設計部門だけでは解決できず、解析系キーマンの力を借りてMBD手法を応用し、設計段階で商品性の定量的な予測と最適化ができるハードウェア系の次世代設計プロセスの基本形を手探りで構築していきました。

技術顧問プロフィール
1979 年:東京大学工学部機械工学科を卒業 本田技術研究所(四輪)に入社
2016 年:本田技術研究所を退社 技術コンサルティング会社を立上げ
2017 年:プログレス・テクノロジーズ社の技術顧問に就任