MBD/MBSEにたどり着くまで第8回 設計手戻り防止プロジェクト始動
第8回からは、私の開発支援開発時代の体験談を3回に分けてお話ししたいと思います。
海外駐在や他部門を経て久々に古巣の四輪R&Dセンターに戻りました。エンジン開発現場はラインナップの刷新時期を迎え多忙を極めており、かつて私が開発責任者として苦労した設計手戻りを抜本的に解決できないでいました。
設計手戻り防止プロジェクト始動
そこで、量産開発を支えるために、手戻り防止を主目的とした支援技術開発プロジェクトを自ら立ち上げる決心をし、取組むテーマを選定することにしました。
表面的な対策では再発を繰り返すので、根本原因まで深掘りし本質的な対策を施す必要があります。課題を整理し体系化するために設計変更の分析に取組みました。膨大な帳票類から重要項目を抽出し原因別に仕分けをすると、燃費やNV(音振動)に代表される商品性系の手戻り、すなわち企画目標の未達が最大でした。とりわけ、環境規制の強化を背景として燃費目標が高くなる一方で、燃費向上のための要素技術の仕込みが追い付かないことが原因の一つです。加えて、設計段階で商品性目標の達成度を定量的に予測し、作図前に最適な仕様や諸元を選定することが難しいことも根本的な原因になっています。
企画目標の未達と信頼系の手戻り
次は信頼性系の手戻りで、社内の耐久試験で達成基準をクリアーできないことです。さらに分析を進めると、摩耗に代表される劣化事象が最大の弱点でした。設計基準は十分ではなく、シミュレーションも苦手領域で、商品性と同様に設計段階で劣化寿命を定量的に予測し、作図前に最適な仕様や諸元を選定することは困難です。
以上の分析結果を踏まえ、本質的な手戻り防止のための重点テーマとして以下3項目に絞りました。
(1)商品性要素技術の先行仕込みを強化すること |
(2)設計段階で商品性の予測と最適化を可能とすること |
(3)設計段階で信頼性の予測と最適化を可能とすること |
現実的には資源の制約で全テーマの同時着手は困難であり、手始めに、優先度が高い燃費向上のための要素技術開発に取り組むことにしました。エンジンの燃焼領域は既に取組まれていましたので、ハードウェア領域での体系的な損失低減技術に攻め所を定め、過去に培った人脈を活用してキーマンを取り込み、共に企画書を作成していきました。
企画目標については環境規制の強化を踏まえて高い目標を定め、チームのモチベーションを維持するためにも目標を分割してステップ展開とし、最終的に目標を達成する中長期展開としました。達成手法については、1DCAE (1次元シミュレーション)を戦術的に活用することとし、その目的としては理論的な達成限界を見極めること、設計パラメータ感度を基に新技術の方向性を見出すこと、燃費向上効果の裏付けとすること等と多岐に渡ります。ちなみに、この時期に1DCAEの使い方について学んだことが、後にMBD(モデルベース開発)に取り組む時に大変役立ちました。
スピードが最大の企業価値の時代
企画書が完成し上層部や関連メンバーに粘り強く説明を行いましたが、開発現場は恒常的に多忙で資源確保に苦戦し、テーマ着手までに多くの時間がかかってしまいました。
各社共に環境技術や自動運転技術等の開発には戦略的に取り組んでおり、スピードが最大の企業価値になる時代です。開発現場ではやるべきことは数多くあります。限られた資源で大きな成果を出すためにも、開発資源の中で特に貴重な技術者はコアである独自技術や魅力商品の開発に集中し、周辺業務は外部に委託する等、メリハリのあるグランドデザインが企業競争力を支配することになるでしょう。
時間はかかりましたが、チームメンバーの頑張りで最終的に高い企画目標を達成できました。
軽量化の課題残る
しかし、軽量化については強度基準近くまで部品の肉をそぎ落すことで目標を達成したものの、NV(音振動)が悪化し剛性を確保するために再び肉付けするという試行錯誤が発生してしまい、限界まで軽量化可能な汎用的なプロセスの確立には至りませんでした。この時の苦い経験が、後にハードウェア系のMBDに取り組む時に大きなモチベーションになりました。
次回は、支援技術開発の2本目の柱である信頼性の手戻り防止に取り組んだ時の体験談をお話ししたいと思います。設計基準は十分ではなく、シミュレーションも苦手な領域で、設計段階で信頼性を保証する手法には大いに悩みました。燃費向上技術と同様に人脈を活用して解析および実験に強いキーマンを取り込み、保証技術を整備していきました。設計、解析、実験の各領域の経験と知恵を持ち寄れば、手ごわい問題も解くことができるということを改めて学びました。
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