自動車技術会春季大会 寄稿 前編 製造系企業編

2018.07.13

自動車技術会とは

先日、自動車技術会春季大会を視察しましたので、2回に分けて最新の技術動向等をお伝えします。第1回は製造系企業編(自動車・部品・素材等)、第2回は支援系企業編(計測・解析等)です。ちなみに、自動車技術会は自動車に関連する技術者や学生等の会員から構成され、シンポジウム・講習会・展示会の開催、自動車規格の制定、研究業績の表彰等を行っている公益社団法人です。年2回、大会を主催しており、総会・各種授賞式等と合わせて学術講演会・自動車技術展(人とくるまのテクノロジー展)も含む総合的なイベントで、春季大会は5月にパシフィコ横浜で開催され、秋季大会は10月に主要都市で開催されます。

技術視察の観点

私は毎年春季大会には必ず参加しており、視察の観点は「定点観測により、本質的な変化を捉える」ことです。毎年のように新技術や新手法が登場しますが、それらが主流となるのか、一過性で終わるのかを見極め、時代に先駆けて自ら変わることが重要だと考えています。生存競争と同じで、「強い者ではなく、変わる者が生き残る」という哲学で、変化は事業拡大や自己成長のチャンスと、前向きに考えるようにしています。なお、自動車業界の方はもとより、技術や開発手法等は自動車業界から他の業界に波及していくことも多いので、自動車業界以外の皆さんにも積極的に参加して欲しいと思います。

最大の注目技術「自動運転」

製造系企業群で最大の注目技術は言うまでも無く自動運転で、技術進化が急速に進んでいます。サプライアが主導しており、メガサプライアの展示が目につきました。リードしているのは海外勢で、積極的なM&Aで巨大化し、ワンストップの技術開発と標準品を大量供給するビジネスモデルのようです。日本勢にも、スピード感を持って巻き返して欲しいと思います。

技術的にはレベル3(特定の場所でシステムが全てを操作し、緊急時等はドライバーが操作)を既に実現しており、レベル4(特定の場所でシステムが全てを操作)はハードルが相当高くなりますが、実現は時間の問題かもしれません。ちなみに、航空業界でも完全自動化はできていないので、レベル5(完全自動運転で、場所の限定なくシステムが全てを操作)は容易ではないと考えています。

次に注目すべきは「電動化」

次の注目すべき技術動向は電動化です。世界的なCO2等の環境規制を背景に、パワートレインの電動化が急速に拡大し、ハイブリッド車および電気自動車の技術進化も加速しています。今年も多くの講演発表や展示があり、エンジン熱効率向上等の従来技術の改良も地道に行われています。開発の重点は電動化にシフトしていきますが、エンジニアの頑張りもあって内燃機関はしぶとく生き残ると思います。今後は、電動化の進展に合わせてエンジンの起動停止が増え、低温時の熱効率向上や音振動の抑制等の技術改良も必要になると思われます。また、進展国でのモータリゼーションも拡大し、しばらくは内燃機関の数は増加していくものと予想されていますし、電池を巡る課題も多く、すぐに内燃機関が消滅すると考えるのは早急でしょう。

ディーゼルエンジン

ディーゼルエンジンは排ガス問題を引きずり、縮小や撤退を表明する企業が増えてきましたが、マツダのように強い意志でディーゼルの技術進化を強力に推進する企業もあり、エンジニアも頑張っていますので、私は復活の可能性を感じています。

トランスミッション

トランスミッションは電動化の進展と共に大きな構造変更が始まっており、どのように進化していくのか、しばらくは目が離せないと思います。将来エンジンが消滅し電気自動車にシフトしても、モーターのポテンシャルを引き出すためにトランスミッションは形を変えながら生き残ると思われます。

ボディ

ボディについては、今年も素材メーカーから材料置換による軽量ボディの展示が多くありました。視察者が大変多く軽量化についての関心の高さがうかがえます。しかしながら、ボディの設計には衝突性能・操縦安定性・音振動抑制等の総合的な設計力が必要で、特に鉄鋼以外のメーカーには技術的なハードルが高く、コストや製造時間等の課題もあって、材料置換は容易ではないでしょう。

革新的な技術と自動車業界の未来

最後になりますが、自動運転技術の進展により衝突しない車が実現すれば、ボディ構造も大きく変わる可能性もあります。また、自動運転に向けて、パワートレイン系とシャーシ系を総合的にコントロールする車両統合制御が実現し、最終的にはクラウド制御になるのかもしれません。革新的な技術は夢から生まれることも多く、ぜひ皆さんも仕事の合間に未来を想像(夢想)してみてください。

支援系企業群の最新動向について

次回は支援系企業編です。製造業を支援し、計測技術やシミュレーション等の解析技術を提供する企業群です。注目技術の一つは、1DCAE(1次元シミュレーション)によるモデルを活用した新たな開発手法であるMBD(モデルベース開発)で、開発現場に急速に浸透すると共に、制御系からハード系への拡大も着実に進んでおり、その最新動向を紹介します。