次世代ハードウェア設計プロセス第9回 吸排気系の設計

2020.04.06

第9回は吸排気系と主要構成部品について、ハードウェアの技術ポイントや設計手法を解説します。エンジンの燃焼を支え、出力性能や排ガス性能を左右する重要なシステムです。

 初めに吸気系について解説します。吸気系の基本機能は、外気を吸入(吸気)および浄化し、シリンダーヘッド内の各燃焼室に供給することです。基本構造は、吸入ダクトから外気を吸い込み、クリーナーで濾過し、スロットルボディから吸気マニホールドを経てシリンダーヘッドに供給します。構成部品の多くが、軽量低コストで設計自由度の高い樹脂製です。

吸気系

①吸気マニホールド

 機能は、空気を各燃焼室に均等に供給することです。構造は、上流側にスロットルボディ(後述)を取付け、集合チャンバーから各吸気ポートを経て全シリンダーに接続します。

 出力向上を狙い、体積効率(吸気量と排気量の比)を高めるために、吸気慣性や脈動等の動的効果を最大限活用します。出力特性に合わせて吸気ポートの径と長さを適切に設定し、吸入抵抗を下げる設計が重要です。運転条件により最適な吸気ポート長が変化するため、吸気管長を可変とするタイプも多く採用されています。吸気音を抑制するために、スロットルボディから各シリンダーまでの管長を揃えることも必要です。また、EGRガス(燃焼温度を下げてNOxを低減する排気再循環ガス)やブローバイガス(燃焼室からピストンリングを通過して漏れるガス)を燃焼室に導入する通路も必要で、熱対策や均等に配分する設計が求められます。

 従来はアルミ合金製(鋳造製法)が主流でしたが、現在では軽量化やコストダウンを目的に、樹脂製が一般的です。射出成型で部品を製造し、摩擦溶着(接着面を振動させて発熱溶融させて接着)して完成品とします。

②スロットルボディ

 機能は、アクセルペダルの踏み込み量に応じて、スロットルバルブを開閉して吸気量を制御することです。構造は、スロットルバルブ、開度センサー(バルブ開度を検知)、バルブ駆動機構およびモーター類を組込みます。現在は、機械制御(ケーブル駆動)に代わり電子制御(モーター駆動)が主流で、ドライブバイワイヤ(Drive-By-Wire)と呼ばれています。
 
 電子制御化により、アクセルペダルの踏込み量に対して、運転条件やエンジン特性に応じてスロットルバルブの開度を微調整し、燃費向上等が可能となりました。

③エアクリーナー

 機能は、吸気中の有害な異物を濾過することです。構造は、吸気ダクトからスロットルボディの間に設置され、フィルターを内蔵します。濾過面積を確保するために、フィルターは折り畳まれて収納されます。

 フィルター設計の基本は、メンテナンス期間の総吸気量から捕捉異物量を予測し、必要な濾過面積を求め、運転環境等も配慮して濾過材を選択します。濾過材は紙製と不織布製があり、用途等により使い分けます。紙製は密度が均一で、設計密度以上の異物を全て捕捉するため定期的な清掃が必要です。不織布製は密度を可変にでき、異物のサイズに応じて捕捉するため、より多くの異物を捕捉することができます。

 吸気脈動による騒音が発生しやすいため、必要に応じてレゾネーター(共鳴効果を利用した騒音低減デバイス)を設置します。吸気温度が上昇すると出力が低下するため、吸気導入ダクトはエンジンルームの最前部で、雨水が侵入しない場所に配置することが重要です。

 次に排気系について解説します。排気系の基本機能は、排気(燃焼ガス)を浄化し、スムースに排出することです。基本構造は、燃焼ガスをコンバーター(触媒)で浄化した後、排気管およびサイレンサー(消音器)を経由して外気に排出します。高温ガスによる熱疲労、排気系振動による破損等、耐久信頼性の保証が重要です。最近ではシミュレーション精度の向上により、設計段階で耐久信頼性の予測ができるようになりました。構成部品の多くは、耐熱性と疲労強度が高いステンレス鋼板製です。

排気系

①排気マニホールド

 機能は、各燃焼室から発生するガスを集合させ、排気管に流します。構造は、シリンダーヘッドに取り付けられ、各燃焼室から集合部と触媒部を経て排気管に接続します。

 吸気マニホールドと同様に、出力向上を狙い掃気効果(排気脈動を活用して残留ガスを排出)により体積効率を向上させます。集合部までの管長を適切に設定し、点火順序を考慮して排気干渉を避けるように集合させる設計を行います。エンジンに固定されるため、車体に固定される排気管との締結部には、球面ジョイント等の振動吸収機構が不可欠になります。

 従来は鋳鉄製が主流でしたが、現在では軽量化やコストダウンを目的にステンレス鋼板製が主流です。シリンダーヘッド内で排気を集合させることで、排気マニホールドを廃止するタイプも増えてきました。

②サイレンサー(消音器)

 機能は、燃焼ガスによる騒音を目標とする水準まで低減することです。構造は、必要な消音特性を得るために、共鳴、拡張等の消音機能を組み合わせ、メインおよびサブのサイレンサーに組込みます。エンジンの高出力化に伴い排気流量が増え騒音が増大するため、排気バルブを設けて、通常走行時はバルブを閉じて騒音低減を図り、加速時にはバルブを開いて流量を増加させる可変流量タイプも増えています。

 次回は、過給系と主要構成部品について解説します。エンジンの出力性能を高め、車両燃費を向上する手法の一つとして活用されています。