次世代ハードウェア設計プロセス第7回 潤滑系の設計

2020.02.03

第7回は、潤滑系と主要構成部品について、ハードウェアの技術ポイントや設計手法を解説します。エンジンを適切に潤滑するだけでなく、冷却や防錆等の機能も有する重要な部品群です。

潤滑系の基本機能は、エンジン内部の摺動部品に必要なオイルを供給して、摩耗やフリクション(摺動抵抗)を減らすと共に摺動部を冷却することです。

 潤滑油の流れは、オイルパンからストレーナーを経由してオイルポンプでオイルを吸い上げ、オイルフィルターで異物を濾過した後に各摺動部に圧送され、潤滑した後でオイルパンに戻る回路です。油温が上昇して必要な油膜が確保できない高出力エンジンでは、必要に応じて水冷または空冷のオイルクーラーが付加されることがあります。

 技術ポイントは、基本的な回路設計を行った上で、要求される油圧と油量を基に、潤滑回路の圧力損失を考慮してポンプの理論吐出量を定めます。次に、各摺動部品の要求に合わせて、それぞれの油路やオリフィス(絞り)等の設計を行います。代表的な摺動部品は主運動系のクランクシャフト、ピストン、ピストンリング等と、動弁系のカムシャフト、ロッカーアーム、バルブ等で、それぞれ油圧と油量の要求値が定められています。特に、コネクティングロッドの軸受は、クランクシャフト内の油路を経由して給油するため、クランク回転による遠心力を上回る油圧が必要です。

 潤滑回路にエアーが混入すると摺動部にキャビテーション等が発生し、最悪の場合は焼付に至る恐れがあるため、オイルを吸い込むストレーナーの位置が重要です。車両の加減速や旋回等により油面が大きく波打ち、ストレーナーからエアーを吸いやすくなります。設計段階で最適なストレーナーの位置を予測することは難しく、実機検証により設計にフィードバックしていましたが、近年ではシミュレーション技術の進化(粒子法等)により、精度良く予測できるようになってきました。

①オイルポンプ

 基本的な機能は、オイルを各摺動部品に供給することです。エンジン回転数は広範囲に及び、アイドリング等の低回転では最低限の油量が必要です。一方、高回転では油量が過剰となるため、リリーフバルブを設置して余分なオイルをオイルパン、またはオイルポンプ上流側に戻します。

 基本的な構造は、ギアポンプが主流で、内接ギアと外接ギアの2種類です。内接タイプはトロコイド歯型が一般的で、内側ギアから外側ギアを駆動してオイルを吐出します。外接タイプはインボリュート歯型が一般的で、一方のギアが他方のギアを駆動します。ドライブ側ギアの駆動方式は、クランクシャフトで直接駆動するタイプと、チェーン等により間接駆動するタイプがあります。ギアの製造は、省加工を目的として焼結製法(金属粉末を焼き固める製造方法)が主流です。

 最近は燃費要求が一段と厳しくなり、可変容量ポンプの採用が増えています。エンジンの運転状態に応じて吐出量を変化させ、高回転でリリーフすることなく、無駄なポンプ仕事(油圧と油量の積)を減らす効果があります。機構としては、電磁バルブを用いて油量を制御するタイプやベーンポンプの偏心量を可変化するタイプがあります。ベーンポンプとは羽根ポンプとも呼ばれ、中心軸の溝に10枚前後のベーン(羽根)を組込み、ベーンが遠心力で飛び出し、偏心したポンプ室の内周面に沿って摺動しながら、容積変化によりオイルを吐出するタイプで、偏心量を可変化しやすい構造です。

②オイルフィルター

 基本的な機能は、オイル中の有害な異物を除去することです。異物の代表例は燃焼生成物や摩耗粉で、摺動部の摩耗を加速する原因となります。

 基本的な構造は、圧力損失を減らして異物の捕捉量を増やすために、濾紙の表面積を増やす必要があり、折り畳まれた濾紙が内蔵された交換式カートリッジタイプが一般的です。全オイルを濾過するフルフロータイプが主流で、捕捉した異物が増え過ぎると、圧力損失で油圧が低下しエンジントラブルの原因にもなるので、圧力損失が基準を超えるとショートカットするようにリリーフバルブが設置されています。フィルターはメンテナンス時に交換しやすいように、レイアウトには十分配慮する必要があります。

③オイル劣化検知システム

 市場の運転条件や各種データ類を大量に取得および解析し、劣化アルゴリズム(実験モデル)を構築します。このアルゴリズムを基に、実走行時の条件やデータを積算してオイル劣化状態を推定します。メンテナンスを適切に行うために採用が増加しています。

④オイル

 求められる機能は、潤滑や冷却だけでなく、清浄、防錆、分散、消泡、酸化安定、摩擦調整等、多岐に渡り、基油と添加剤から構成されます。基油は鉱油(石油由来の油)ベースで、粘度指数や硫黄分等についての規格があります。添加剤は、上記機能を発揮するために、清浄剤、防錆剤、分散剤、消泡剤、摩擦調整剤等が必要量混合されています。燃費向上のため、フリクションを低減する目的で低粘度化が進展していますが、耐摩耗性が低下するため、摩擦調整剤等の最適化により対策をしています。

 次回は、冷却系と主要構成部品について解説します。エンジンを冷却するだけでなく、車両の熱マネージメントシステムに組み込まれて、燃費視点で全体最適化されるようになり、MBSE(Model Based Systems Engineering)手法に基づいたシステム設計が必要な時代になってきました。