次世代ハードウェア設計プロセス第6回 ヘッド・動弁系 動弁機構主要部品の設計

2020.01.06

第6回は、エンジンの吸排気バルブを駆動する動弁機構の主要構成部品について、ハードウェアの技術ポイントや設計手法を解説します。強度や摩耗等の設計要件を満足した上で、軽量コンパクトで、かつ高剛性というトレードオフ設計が必須となる難しい部品群です。

①カムシャフト

カムシャフトの基本機能は、クランクシャフトに同期(クランクの二分の一の回転数)し、ロッカーアーム等を介して精確に吸排気バルブを開閉させることです。
 最大の技術ポイントは、カムローブ(カム山)の耐久性です。各バルブの駆動には、それぞれカムローブが必要なため、エンジンの高出力化に伴い1シリンダー当たり4バルブが採用され、各カムローブの幅が狭くなっています。しかも、フリクション(摩擦損失)低減のために、ロッカーアームにローラーフォロアー(ニードルベアリング)が組み込まれ、カムローブの接触面圧が増加して、ピッチング(転がり疲れにより生じる微穴)等の損傷が発生しやすくなります。面圧を低減する設計、高面圧に耐える材料、潤滑条件の改善等の総合的な設計対策が不可欠です。

 カムシャフトの素材は、鋳鉄(炭素と珪素を多く含み流動性が良く高硬度)や鋳鋼(炭素を減らして高強度化)を用いて鋳造成形されることが一般的です。最近は軽量化や省加工化を目的として、中空パイプに、焼結(合金の粉体を焼き固める)成形されたカムローブを固定するタイプも採用されています。バルブリフトカーブを精密に再現するため、成形後にCNC(Computer Numerical Control)カム研削機でカムローブを高精度に研削加工します。

②バルブ

 バルブの基本機能は、燃焼室内の吸排気をスムースに行うことです。軸の先端に円錐形の傘部をもったポペットバルブ(シール面と直角方向に動作するバルブ)が採用されます。燃焼室のガスシールのため、バルブ傘部が接触する側にはバルブシートが必要です。シートは焼結成形された後に機械加工され、シリンダーヘッドに常温圧入、または焼き嵌め(ヘッドを加熱膨張させ、シートを嵌めて固定)します。バルブとのシール性を確保するため、固定後に仕上げ加工を施します。

 技術ポイントは、挙動安定化やスプリング荷重低減のために、限界まで軽量化することです。バルブの細軸化や中空化にあたり、軸の破損や軸先端のピッチング(ロッカーアームとの接触による)等の耐久性には十分留意する必要があります。また、軸剛性の低下等により、バルブシートの摩耗が悪化することがありますので要注意です。

 材料は、吸気バルブには合金鋼、排気バルブには耐熱鋼が使われます。耐熱鋼は高価なため必要部以外は合金鋼とし、2種の鋼材を接合することがあります。過給等でバルブが高温になるエンジンでは、排気バルブ内部に冷却用のナトリウムを封入するタイプが使用されます。製法は、鋼線材を加熱しアップセット鍛造(据え込みにより膨らませる)成形して傘部を形成することが一般的で、切削加工と比べて材料歩留まり(原材料と製品の割合)が優位です。

 

③バルブスプリング

 バルブスプリングは鋼線材をコイル状に巻いた圧縮用スプリングで、基本機能はバルブ挙動を安定させ、設計リフトカーブ通りに精確に開閉させることです。スプリング荷重が不足するとバルブのジャンプやバウンスが発生し、出力低下やバルブ破損等につながるので、等価慣性重量に見合った荷重設定が重要です。サージング(リフトカーブの高周波成分によりスプリングが共振する現象)の防止には、不等ピッチ(場所により巻きピッチを変化)が効果的です。なお、バルブ着座面の摩耗やシート間の異物噛み込みを防止するため、ピッチ設定によりバルブを適度に回転させることも必要です。

 材料は弁ばね用鋼材が使用され、コイリング後に熱処理し、ショットピーニング加工(鉄鋼等の小物体を高速で金属に衝突させ、加工硬化や圧縮残留応力を付加する)により疲労強度を高めることが一般的です。

④ロッカーアーム、バルブリフター

 基本機能は、カムプロファイルをバルブリフトカーブに変換することです。動弁機構により、ロッカーアームとバルブリフターの2種類のタイプがあります。ロッカーアームは支点を中心に揺動運動するタイプで、カム側にローラーフォロアーが、バルブ側にアジャストスクリュー(弁隙間を調整するネジ)が組み込まれます。バルブリフターはバルブに円筒形のバケットを被せ、カムが直接駆動するタイプで、カム面と滑り接触のためフリクションが少し高めですが、部品点数が少なく等価重量も軽い利点があります。

 シリンダーヘッドや動弁系構成部品の熱膨張等があってもバルブが必ず着座するように、わずかな隙間を設定します。組立時にアジャストスクリューやシム(スペーサ)で、全バルブの隙間を微調整します。また、長期間運転すると各部の摩耗等で隙間が変化しますので、一定距離を走行後に再調整が必要になることがあります。これらの調整工数や隙間による騒音を低減するために、HLA(ハイドローリックラッシュアジャスター)の採用も増えています。熱膨張や摩耗等による寸法変化を、油圧により自動調整して弁隙間を常にゼロにする機構です。内部に気泡が混入し挙動が不安定になることもあり、油回路設計には十分注意する必要があります。

⑤カムシャフト駆動部品

 SOHCやDOHCでは、チェーンや歯付ベルトでカムシャフトを駆動することが一般的です。チェーンと比較して、ベルトはフリクションが低く、静粛で伸びも少ないのですが、高温や潤滑油等により劣化するため、現在はチェーンが主流です。最近、油中でも劣化しにくいベルトが開発されましたので、今後はベルトの採用も増えていくものと思われます。

 次回は、潤滑系と主要構成部品について解説します。エンジンを潤滑するだけでなく、冷却や防錆等の機能も有する重要な部品群です。