次世代ハードウェア設計プロセス第4回 ヘッド・動弁系 シリンダーヘッド、ガスケットの設計
第4回は、エンジンの燃焼を支えるヘッド・動弁系の中核部品であるシリンダーヘッドと燃焼ガスをシールするヘッドガスケットについて、ガソリンエンジンを例にハードウェアの技術ポイントや設計手法を解説します。熱疲労によるヘッド破損、バルブシート摩耗による圧縮不良、ガスケットからのガス漏れ等が頻発し、耐久信頼性保証が難しい部品です。
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① シリンダーヘッド
ヘッドの基本機能はピストンと共に燃焼室を形成し、吸排気を適切に行うことです。ピストンと同様に、運転中は燃焼ガスによる高温高圧にさらされ、運転と停止による冷熱サイクルも加わり、確実な耐久信頼性が要求されます。
ヘッドの基本構造は燃焼室、吸排気ポート、吸排気バルブ保持部(ガイドおよびシート)、ウォータージャケット等から構成され、ガスケットを挟んでシリンダーブロックに結合されます。さらに、内部には動弁系が配置され、複雑な構造となります。
初めに、燃焼要求に沿って燃焼室、吸排気バルブ及びポートの基本設計を行います。出力・燃費・排ガス等に大きな影響を及ぼすため、吸排気マニホールド設計も含めて、実験部門との擦り合わせが不可欠です。燃焼技術の詳細は別の機会とさせていただき、今回はハードウェア設計に焦点を当てていきます。
最大出力を達成するのに必要な吸気量を確保するため、初めにシリンダー径とバルブ径を設定します。高出力化等の要求により、吸排気バルブはシリンダーあたり各2個、計4バルブで、ヘッドの両サイドに吸排気バルブを配置するクロスフロータイプが主流になっています。
吸排気ポートの設計については、シミュレーションを活用しながら、燃焼室からマニホールドまで必要な断面積を確保し、さらに断面積変化を最小にします。必要に応じて、スワール(横流動)やタンブル(縦流動)等の混合気流動を与える吸気ポートを設計します。排気ポートは冷却が重要であり、ウォータージャケットを適切に配置します。
冷却水は、ガスケットの水穴を通してシリンダーブロックからヘッドに供給され、燃焼室と排気ポートを重点的に冷却します。最適な水量配分は水穴のサイズ調整で行います。従来は実験で水流確認や温度計測を行いましたが、最近はシミュレーションが多用されるようになりました。冷却性向上にはジャケットの微細化が効果的ですが、中子の強度低下や鋳造後の排砂性悪化を招くため、製造部門との擦り合わせが必要です。
耐久信頼性については、燃焼による各部の温度上昇と発生応力に加えて、鋳造時の残留応力も加味しながら、材料疲労強度に安全率分を差し引いた応力以下となるよう設計を行います。従来は耐久試験による検証が主体でしたが、最近ではシミュレーション精度も向上し、1次元(熱発生モデル・熱伝達モデル)と3次元(ヘッド構造)をつなぐことで、より高精度な予測と検証が可能になってきました。
燃料消費量を低減するためにエンジンの熱効率向上が要求され、圧縮比(最大容積と最小容積の比)を高める必要があります。他方で、ノッキング(自己着火による異常燃焼)が発生しやすくなるため、コンパクト燃焼室や混合気流動により燃焼期間を早める、ウォータージャケットやオイルジェット等により燃焼室まわりを冷却する等のノッキング対策が必要になってきます。
最近は、燃料インジェクターを燃焼室に配置する直噴方式が増えています。燃料冷却によりノッキング抑制効果があり、リーンバーン(希薄燃焼)にも適していますが、シリンダーへの燃料付着により潤滑油に燃料成分が混入する機会が増えるため、付着低減に配慮した設計が不可欠です。
最後に、ヘッドの一般的な材料と製法を紹介します。熱伝達性や鋳造性のためアルミ合金が採用され、中子を多用することから低圧鋳造で製造されます。低圧鋳造法とは、空気や不活性ガスにより低圧を作用させる鋳造法で、複雑な製品成形に適しています。他方で冷却速度が遅くサイクルタイムが長くなるため、鋳造機が複数必要になります。強度向上を目的に、鋳造後に熱処理(溶体化処理や時効硬化処理)が必須です。
ヘッドには動弁系が内蔵されるため高精度な機械加工が要求され、燃焼室は圧縮比バラツキを低減する目的で容積が厳しく管理されています。
② ヘッドガスケット
ヘッドガスケットの基本機能は燃焼ガスのシールで、潤滑油や冷却水のシールも担います。ヘッド同様に厳しい条件で使用され、ガスケットにも耐久信頼性が不可欠です。耐久性には長年に渡り苦しんできましたが、評価技術の進歩や金属製ガスケットの登場により、定量的な保証が可能になってきました。
ヘッドガスケットの基本構造は、ゴムコーティングされた金属製の薄板を複数積層したタイプが一般的です。ゴムコーティングの目的は、ヘッドやブロック表面の微細な凹凸のミクロシールです。燃焼ガスシール部には、燃焼圧によるヘッド・ブロックの口開きへの追従性を高めるため、プレスによるビード加工(凸形状)が施されます。ビードの追従性には限界があり、必要に応じて枚数を増やして対応しますが、熱伝達が悪化するため、ヘッド・ブロックの剛性とのバランスが重要です。
必要な個所に必要な面圧を与える設計が必要です。そのためにはガスケット単品設計だけではなく、ヘッド・ブロック・締結ボルトを含めたシステム設計が不可欠です。構造体の剛性を高めると重量増加につながり、締結ボルトの軸力を高めるとシリンダー変形が悪化し、オイル消費やフリクションの増加につながるため、必要最小限の面圧となるよう、各部品の全体最適設計が重要になります。
特に重要なのが締結ボルトの設計です。面圧確保のため高い軸力が要求され、M10からM12程度のサイズで、1,000MPaクラスの高強度ボルトをシリンダー当たり4本使用するのが一般的です。初期軸力は、組立時の軸力バラツキ、冷熱による軸力変動やボルト座面のヘタリ等による軸力低下等を加味して決定します。最近は、締結時の軸力バラツキ低減のために塑性域締結法が導入されています。降伏域を超えるまで軸力を高め、軸力変化が少ない塑性域で使用するためバラツキを低減することが可能です。
次回は、ヘッド・動弁系の2回目として、動弁系の全般と主要部品について解説します。挙動や潤滑等の設計要件を満足した上で、コンパクトに設計することが難しい部品です。