次世代ハードウェア設計プロセス第2回 主運動系 クランクシャフト、軸受の設計

2019.08.01

 第2回と第3回は、エンジンの基幹部の一つである主運動系が対象です。主運動系とは燃焼圧力を回転運動に変換する機能システムであり、クランクシャフト、ピストン、コンロッド(コネクティングロッド)等の部品群で構成されます。第2回はクランクシャフトと軸受について、技術ポイントや設計手法を解説します。

 初めに、レシプロエンジンの起振力とバランシングについて説明しておきます。ピストン等の往復部質量が起振源となり、シリンダー配列により慣性力や慣性偶力が発生します。直列3気筒では1次(回転数と等速)の慣性偶力が発生し、直列4気筒では2次(回転数の倍速)の慣性力が発生します。それぞれ、1次偶力バランサー、2次慣性力バランサーによりキャンセルすることが可能です。エンジン排気量が大きいほど起振力が増加するため、搭載車の車格も考慮しながらバランサーの必要性を判断します。

① クランクシャフト

 クランクシャフトの基本構造は、2サイクルでは組立型(転がり軸受で飛沫給油)、4サイクルでは一体型(滑り軸受で強制給油)が一般的です。1シリンダー分を1スローと呼び、主軸(ジャーナル)、副軸(ピン)、ウェブ(アーム)、カウンターウェイトから構成されます。両端には、補機駆動用のプーリー取付け部と出力用のフランジ部が配置されます。

 運転中のクランクシャフトの挙動は複雑で、低回転では爆発荷重支配、高回転では慣性力支配であり、全域における強度確保、振動抑制、軸受耐久性等が主要な技術課題です。簡易計算や過去の実績に基づいて基本的な諸元および形状を定め、各種シミュレーションにより強度、挙動、軸受部の油膜厚さ等を解析し、設計にフィードバックして最終仕様を決定します。
 かつては計算精度が十分ではなく実機による検証が主体で、設計手戻りにより仕様熟成には多大な工数と時間がかかる難度の高い部品の代表でした。近年では計測技術やシミュレーションの進化で、設計段階で精度良く挙動を予測できるようになり、早期に強度や音振動の見通しが得られるようになってきました。最近ではMBDを応用したシステム設計手法が確立されつつあり、部品レベルを超えてシステムレベルでの多目的最適化により、初期段階でバランスの良い軽量なシステム設計が可能となる日も近いと思われます。

 強度については、運転中に捩じり曲げによる繰返し応力が付加されるため、特に疲労強度が重要です。材料の疲労強度を実験で精度良く求め、設計努力で過大な応力を下げて必要な安全率を確保する必要があります。また、軸とウェブのつなぎ部(フィレット)や油穴開口部等には応力が集中するため、設計配慮に加えて、加工や熱処理等の製造上の対応も必要です。
 振動については、必要に応じて適切な振動低減デバイスを装備するのが一般的です。補機駆動用プーリーに、捩じりや曲げダンパーを付加することが多く、ダンパーはラバータイプが主流ですが、ディーゼルエンジンでは高性能なビスカスタイプが採用されることがあります。

 最後に、クランクシャフトの一般的な材料と製法を紹介します。鍛造は炭素鋼をプレスし鍛えて造る製法で、組織が緻密で材料欠陥も少ないため、多く採用されています。円筒形の鋼材を高周波加熱し、数回鍛造して成形しますので、鋼材の外形を小さく、かつ材料歩留まり(製品と鋼材の重量比)を向上させる設計配慮も必要です。また、3気筒やV型6気筒用クランク等ではピン配置が立体的なクランクとなるため、平面鍛造後にツイストして製品形状に仕上げることがあります。
 一方、鋳造はダクタイル鋳鉄(球状黒鉛鋳鉄)等を型に鋳込む製法で、鍛造と比較して強度はやや低めですが、中空形状も成形でき、機械加工が容易でコストも安いため、小型ガソリンエンジンによく用いられます。
 機械加工は多くの工程が必要で、高精度を要求される部位も多く、高度な生産技術や設備が必要です。加工後に、強度や耐摩耗性のために高周波焼入れや軟窒化等の熱処理を施し、その後、軸受耐久性とフリクション低減のため、主軸・副軸には鏡面仕上げが施されることが多くなっています。

② 軸受

 次に、主軸受、および副軸受(コンロッド)について説明します。機械損失(フリクション)や熱損失を減らし、軸の滑らかな回転を支える重要な部品です。高速で高負荷が作用し、運転条件により負荷変動も大きいため、4サイクルでは音振動面でも有利な滑り軸受が用いられます。滑り軸受は、潤滑油による流体潤滑作用で発生する油膜圧力により高負荷を支えます。油膜圧力は、基本的にくさび膜圧力(軸回転方向)と絞り膜圧力(軸直角方向)の2つで、レイノルズ方程式を用いて計算します。最近では、軸等の弾性変形を考慮した弾性流体潤滑(EHL)が活用され、解析精度が向上しています。

 軸受の構造は半割タイプで、断面は裏金、軸受材の2層構造、またはオーバーレイを追加した3層構造です。軸受材は耐久性(焼付き、摩耗、疲労等)を有するアルミ合金、または銅合金が一般的です。軸受材のみでは強度が不足するため、鋼製の裏金が必要です。馴染み性や耐食性等を強化するために、軸受材の上に金属または非金属のオーバーレイを施すことがあります。

 軸受の耐久信頼性を確保するためには、適切な軸径と軸幅が必要です。P値(面圧)、PV値(面圧×滑り速度)、h値(油膜厚さ)等を計算して決定します。次に、軸受材質の選定を行います。回転数や荷重に応じて各種軸受材料が提供されており、表面に微細な油溝を施して高性能化したタイプもありますので、エンジン特性に合った軸受を選びます。

 軸受設計上のポイントとして、油膜圧力による軸受機能の発揮のために、軸と軸受の隙間の適切な設定と管理が重要です。広すぎると油圧低下や打音につながり、狭すぎると油量が減り発熱による焼付きリスクが増加します。乗用車では音振動の要求レベルが高いことから、軸径と軸受厚さを実測して選択嵌合(かんごう)により目標の隙間になるよう製造管理するのが一般的です。軸受ハウジングの熱膨張による暖機後の隙間拡大を抑制するため、アルミ製のシリンダーブロックに鉄部材を鋳込んだり、鉄製の軸受キャップを採用することもあります。

 特に副軸受の給油には十分な設計配慮が必要です。主軸受からクランクシャフト内を通して副軸受に給油するため、低温時の給油遅れ、高回転時の給油不足や気泡混入等、耐久信頼性上の課題が発生することがあります。クランク内の給油路は機械加工で形成しますが、軸方向から見てI型、V型、H型等のタイプがあり、エンジン特性を考慮して決定します。

 次回は、ピストンとピストンリングについて解説します。運転中の挙動、温度分布、潤滑状態等が複雑で、機能設計や耐久信頼性確保に苦戦する部品です。