次世代ハードウェア設計プロセス第1回 主構造系 シリンダーブロックの設計

2019.07.01

 前年度は製品開発を支える支援技術開発の全体像と、その集大成として、1次元のMBDを応用し設計手戻りの未然防止と設計最適化を実現する次世代設計プロセスについてお話してきました。今年度は製品開発における3次元のハードウェア設計プロセスです。私の専門分野である自動車用ガソリンエンジンを題材として、開発現場での実戦経験も踏まえ、主要部品の設計や技術ポイントについて解説していきます。

 ここで、自動車会社における一般的な製品開発プロセスを概説しておきます。製品開発の出発点は最上位の車両レベルの企画で、最も重要な段階です。企画部門は営業部門等からの情報を収集分析し、市場ニーズや競合車等の将来予測に基づき目標性能や基本諸元等を定め、売価と目標原価を設定します。目標は下位階層のエンジンやシャーシ等の機能領域に割り振られますが、年々目標は高くなり、トレードオフの関係にある性能と原価は開発中の最大のハードルとなって、開発部門を苦しめることになります。
 製品上市までには時間がかかるため企画時点における市場予測が重要ですが、最近は世界規模で事業環境や市場変化が速くなり、予測精度が課題になっています。今後は、情報力や開発スピードが企業競争力を左右する時代になると思われます。

 開発の最初の段階は諸元の決定です。上位の車両要求からエンジンの出力や燃費特性等の目標性能や、排気量やシリンダー配列等の基本諸元を決定します。さらに、エンジン諸目標から各要求を分析して機能展開することにより、主運動系や動弁系等の下位システムの詳細諸元を検討していきます。
 新規エンジン開発には時間がかかるため、搭載車両を想定して製品開発前に先行開発を実施し、信頼性保証や製造技術も含めて技術熟成をしておくことが一般的です。先行開発から製品上市までには、さらに時間がかかりますので、次世代設計プロセスを応用した相似開発(モデル修正による派生開発)や一括開発(派生の同時開発)も必要となるでしょう。

 次に、部品設計の前段階として、決定された諸元に基づきレイアウト(配置)を行います。エンジンルーム内の基本レイアウトが出発点になりますが、電動化に伴いエンジンルーム内は高密度化しており、衝突や熱害等の設計要件を満足しながら適切にレイアウトするのは容易ではなく、関係部署との緊密な連携も不可欠になります。
 この後、エンジンを構成する各システムのレイアウトを経て、構成部品の詳細設計に移行します。このレイアウト段階で部品の諸元や基本形状が定まり、コストや重量のポテンシャルが決まります。一方、設計最適化ツールが十分ではないため、簡易的な設計計算や経験に基づき設計されることも多く、手戻りの原因の一つともなっています。設計者の基本的な役割の一つは、要求機能を最小のコストや重量で実現することであり、次世代設計プロセスの最適化手法が効果的です。

 今年度の第1回は、エンジンの基幹部である主構造系を構成するシリンダーブロック、軸受キャップ、オイルパン等に焦点を当て、代表部品であるシリンダーブロックの設計について解説します。
 初めに、上位のエンジン性能目標から排気量やボア径・ストロークが定められます。その後、シリンダーブロックの基本諸元であるシリンダー間隔やブロック高さ(クランクシャフト軸心からヘッドガスケット面までの距離)等を、軽量化・コンパクト化を狙いながら決定していきます。

 シリンダーブロックの主要機能は以下の様に多岐に渡り、適切に諸元を定めて1枚の図面に全機能を集約し構造を最適化するためには、設計経験や関係部署との調整が不可欠です。最近では、設計アイデアの検証や最適化のためにシミュレーションが積極的に活用され始めています。

① 関連部品結合

 特に、トランスミッション結合では振動抑制が重要で、高い締結剛性が必要となります。シリンダーブロック下部は剛性が不足するため、クランクシャフト軸中心からオイルパン面までの距離を深く取るディープタイプが多くなっています。下部剛性をさらに高めるために、オイルパンをアルミ製としてトランスミッションに結合するケースも増えています。求められる剛性を最小限の重量で実現することがポイントであり、パラメトリック最適化手法が有効な手段の一つになります。

② シール(燃焼ガス、冷却水、潤滑油)

 燃焼ガスシールの信頼性保証には苦戦してきました。エンジンの始動停止による冷熱サイクルにより、シリンダーブロックやシリンダーヘッドの膨張・収縮が繰り返され、ガスケットには大きな負荷となります。さらに全長短縮のためシリンダー間が狭く高温になりやすく、シリンダーブロックのアルミ化とオープンデッキ化(ウォータージャケット上部が開口したタイプ)による剛性低下も加わり、かつては開発終盤になっても耐久テストをクリアできないこともよくありました。最近では、ガスケットやシミュレーションによる構造解析技術の進化で安定した信頼性設計ができるようになりました。
 ガスケットは、ゴムコーティングされたステンレス鋼をプレス成形し、複数枚重ねたタイプが主流です。シリンダーヘッドを締結するボルトの軸力は、高圧による締結部の開き、低温時の軸力低下、シリンダー歪等を考慮し、製造バラツキも加味して決定します。

③ シリンダー冷却

 シリンダー周辺を冷却するためには、ウォータージャケットを適切に配置する必要があります。最近はブロックのアルミ化に伴いライナーの鋳込みが多くなり、ライナー外周が冷却水に接しないドライライナータイプが主流です。冷却系につては後述します。

④ ピストン摺動

 ピストンおよびピストンリングの摺動によるフリクションを低減するために、シリンダーヘッド締結や熱によるシリンダーの歪抑制が重要です。締結部やウォータージャケットの構造最適化が鍵となりますが、経験だけでは難しく、最近はパラメトリック最適化手法が活用されています。一方、シリンダー表面の性状も重要で、表面突起部を除去するプラトーホーニングや溶射技術等も導入されています。最近では、さらなるフリクション低減を狙い、ピストン側圧低減のためにクランクシャフト軸をシリンダー軸とオフセットする例が多くなっています。

⑤ クランクシャフト支持

 クランクシャフト挙動による振動抑制や軸受部の信頼性確保のため、剛性の高い軸受キャップが必要です。高剛性が要求される場合は、キャップを連結したラダーフレームタイプも用いられます。V型エンジンでは斜め荷重が加わり、軸受キャップの横方向の微小ずれが発生しやすいため、サイドからの締結も必要となることがあります。主運動系の詳細については後述します。

⑥ クランクケース換気

 燃焼室からクランクケース内に漏れたブローバイガスは、大気汚染の原因の一つにもなり、潤滑油劣化等の不具合を発生させるため、換気のためのPCV(Positive Crankcase Ventilation)システムが必要です。ガスには潤滑油が混入するため、気液を分離できるコンパクトな流路設計が必要です。分離された潤滑油はクランクケースに戻され、ブローバイガスはインテークマニホールドからエンジンに再吸入し燃焼させます。

 最後に、シリンダーブロックの一般的な材料と製法を紹介します。かつては比較的安価で形状自由度の高い鋳鉄製でしたが、軽量化ニーズの高まりと共にアルミ製が主流となりました。鋳鉄製ブロックは砂の中子(なかご)型により設計自由度が高く、砂型鋳造法で製造しますが、アルミ製ブロックは金型鋳造法で製造します。高圧で溶湯を流し込むハイプレッシャーダイキャストが主流で、基本的に中子型は使用できませんが、生産性が高いのが特徴です。最近は減圧鋳造技術の進化により薄肉化も可能となり、一層の軽量化に貢献しています。
 ライナーは、ピストンとの摺動性を考慮して鋳鉄製が一般的です。熱伝達を高め、シリンダー歪を低減するためにも、ライナーとアルミ母材との密着性が重要です。

 次回は、エンジンの主運動系を構成するクランクシャフト、軸受、コネクティングロッド、ピストン、ピストンリング等に焦点を当て、代表部品であるクランクシャフトと軸受の設計について解説します。軽量化や過給化に伴いシャフトの挙動悪化もあり、設計に苦労する部品の一つです。