第5回 時代を先取りする新エンジン開発

2018.10.01

第5回は、新エンジンの開発責任者として企画や開発に悩み苦しんだ経験をお話ししたいと思います。
企画段階では将来を予測し競合他社に勝つために高めの目標設定を行い、開発段階では目標達成に苦しむというジレンマがあり、加えて多目的な開発目標間のトレードオフやバランスに悩むことになりました。

グローバル競争と開発目標の多目的化

グローバル競争を背景に、ホンダは90年代後半にラインナップの一括刷新の時期を迎えます。時代を先取りする新エンジン群の開発は設計者にとってチャレンジングでしたが、低炭素化の時代が始まり、円高を発端としたコストダウンも含めてエンジンの開発目標は多目的になり、企画や開発が一段と難しくなった時期でもありました。

 

競争力を維持する高い目標設定と将来予測

管理職になって数年目に、新エンジンの先行開発プロジェクトの責任者に指名されました。
新エンジン開発では新技術の確立と熟成を主目的として、量産開発の前に先行開発を行います。エンジンは10年以上使い続けるのが通常ですので、時代の推移や競合他社エンジンの進化について将来予測を行い、長期的に競争力を維持できる高い目標を定めます。
ホンダのエンジンとして絶対に譲れない基本性能は、完成車の動力性能と燃費を支える出力と熱効率です。加えて、NV(音振動)や排ガス(法規)も必須であり、さらに軽量コンパクトと低コストにもこだわり、結果として開発目標は多目的になります。

魅力ある商品群が創出される土壌

この後、目標達成に向けて新エンジンに採用する要素技術を検討します。
要素技術を積み上げて達成予測を行いますが、高い目標やコストの制約で多少の未達成が発生するのが常であり、止む無く開発中の努力代として残します。
技術選択では各責任者の考え方の違いが個性として出てきます。ホンダでは歴史的にプロジェクト責任者の権限が比較的強く、種々の制約はありますが、予め承認された開発目標を達成できれば採用技術等は責任者に一任され、個性的で多様な車やエンジンが創出される土壌となっています。現在ではMBD(モデルベース開発)手法の進化もあってエンジンでもシリーズ一括開発が可能な時代ともなり、多様性は効率が悪そうですが、個性的で魅力ある商品群がホンダを支えているのです。
開発効率は重要ですが、魅力や競争力の無い商品を高効率で開発しても価値はありません。皆さんには、コアである技術や商品に集中して欲しいと思います。そのためにも周辺作業は積極的に外部の力を借りることも必要でしょう。

商品性の定量的な予測は困難

先行開発では、実験段階での設計手戻りの多発に苦戦しました。
商品性領域では高い企画目標の未達成で、原因の一つは要素技術の不足です。当時は低炭素化の時代に入ったばかりで、熱効率や燃費向上のための技術準備が十分ではありませんでした。もう一つは達成予測精度の不足です。企画・設計段階では燃費やNV等の商品性を定量的に予測する手法は無く、実験に頼らざるを得ませんでした。目標が多目的になり、目標間にトレードオフがあることも予測を難しくさせています。
信頼性領域では社内の耐久テストでの不具合が散発し、特に摩耗等の劣化事象が弱点で、設計諸元や図面から劣化寿命を定量的に予測することは困難でした。
先行開発で苦しんだ経験は、後に量産開発を支えるための支援技術開発につながっていきました。詳細はコラムの後半でお話したいと思います。

次回は私の部門長時代の体験談をお話ししたいと思います。
大きな組織をマネジメントすることの難しさに悩み多くの失敗もしましたが、マネジメントの醍醐味を知った時期でした。組織のアウトプットは投入資源量に依存しますが、マネジメント力で大きな差が出るという現実です。

技術顧問プロフィール
1979 年:東京大学工学部機械工学科を卒業 本田技術研究所(四輪)に入社
2016 年:本田技術研究所を退社 技術コンサルティング会社を立上げ
2017 年:プログレス・テクノロジーズ社の技術顧問に就任