第4回 組織と仕組みで設計品質を支える管理職時代

2018.09.06

第4回は、私の管理職時代の体験談をお話ししたいと思います。不慣れな管理職として責任や行動に悩み苦しんだ時代です。部門責任者への通過点として避けては通れない時期でもありました。

1990年代、自動車業界のグローバル競争の幕開け

1990年代は円高が定着して輸出産業が大変苦戦し、自動車業界ではグローバル競争の幕開けともなった時代でした。エンジン領域では70年代の排ガス浄化、80年代の高出力化を経て、90年代には低炭素化の時代が始まります。円高を発端としたコストダウンも含めて、エンジンの開発目標は多目的になり、企画や開発が一段と難しくなってきました。

ホンダは着実に成長して車種が増加し、80年代にはエンジン種類も増えラインナップが形成されましたが、グローバル競争を背景に90年代後半にはラインナップの一括刷新の時期を迎えます。最新技術を積極的に取り入れ、時代を先取りするエンジン群を開発するという、設計者としてはチャレンジングな時代でした。

マニュアル頼みにはいかない、開発現場の管理職

新任管理職として、管理される側から管理する側になって重い責任を負うことになり、管理やマネジメントとは何か、具体的にどのように行動すべきか大変悩みました。管理職研修や市販の参考書は一般的な内容で、開発現場ではそのまま応用はできず、当時はホンダにも体系化された管理職マニュアルの類もありませんでした。
そこで、人望のある先輩の言動を観察し手本にすることにしましたが、自分には合わず長続きしませんでした。不器用ですが自分の強みである着実に積上げるスタイルに立ち返り、眼前の課題一つひとつに真摯に向き合うことで少しずつ結果も出せるようになりました。解決のためのアプローチは一つではなく、自分の強みを生かすことで結果も最大になると実感したのはこの時です。

設計品質を守る責任

管理職としての役割は、基幹部品の設計を担当するグループのマネジメントでした。
量産開発は各グループから必要な設計者を集めたプロジェクトチームで推進し、魅力品質(商品性)を高め、合わせて当たり前品質(信頼性)も確実に守ることが求められています。当たり前品質を支える設計品質については、プロジェクトチームだけでなく設計グループも組織と仕組みで守り、量産開発チームを支える責任がありました。

設計品質を高める本質施策は設計プロセスの標準化と運用です。ベテランの設計手順やノウハウを共有および整理して標準化を行い、全設計者が確実に使用するように運用の仕組みを作る必要があります。図面を検証することは大切ですが、設計プロセスの品質を高めれば、結果である図面品質も高まるはずです。設計者の経験に頼らず安定した設計品質を目指すことが重要で、結果として設計効率化につながります。

仕事は無限で資源は有限

80年代の後半から、グループとして主要部品の設計プロセス標準化に取り組んできましたが、新エンジン群の開発が本格化したことで大半の設計者は量産開発プロジェクトに参加することになり、標準化業務は滞ることが増えて推進に苦労をしました。

開発現場では常に仕事は無限で資源は有限です。戦略に基づき部門のコア業務を絞り、優先度を定めて資源を最適配分するというグランドデザインが不可欠です。コアとなる新技術の創出や魅力ある商品の開発に資源を集中するために、周辺業務は積極的に外部委託をする時代になりました。最近ではCAE解析や実験だけでなく、MBD(モデルベース開発)や設計プロセス標準化等の高度なソリューションを提供できる専門企業もありますので、うまく活用することが鍵となるでしょう。

資源不足で実行することはできませんでしたが、設計グループとして量産開発を支えるためには何が必要かについて考え続けたことは、後に支援開発プロジェクトを立ち上げるための予行演習となりました。設計品質は重要ですが、攻めとなる将来技術の仕込みや、守りとなる信頼性保証技術の確立も必要です。また、自分なりに設計や組織の本質について考え続けたことが、部門長としての予行演習ともなりました。

 

次回は、新エンジンの開発責任者として企画や開発に苦しんだ経験をお話ししたいと思います。
企画段階では、時代進化を予測し他社に勝つためにも無理を承知で高めの目標設定を行い、開発段階では目標の達成に苦しむというジレンマがあり、さらに多目的となって各目標間のトレードオフに苦しむことになりました。

技術顧問プロフィール
1979 年:東京大学工学部機械工学科を卒業 本田技術研究所(四輪)に入社
2016 年:本田技術研究所を退社 技術コンサルティング会社を立上げ
2017 年:プログレス・テクノロジーズ社の技術顧問に就任

 

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